はじめまして、flatoインタビュー企画「移住者に聞いてみた」で、ライターを担当している菊池真代と申します。生まれてから約25年間はずっと首都圏で暮らしてきましたが、2019年から仕事の都合で初めて「地方暮らし」を経験。この2年間で「ふるさと=地方」というイメージが覆されたり、「ふるさと=居場所」という新たな概念に気付けたり…。最初は決してポジティブではなかった「地方暮らし」への気持ちの変化について書いてみました。
地方暮らしは突然に。福岡生活が決まったあの日
2019年3月末のこと。5月から入社予定の転職先から、「配属先:福岡天神」というメールが。
これを見た私は思わず飛び上がり、動揺し、しまいには笑いが止まらなくなりました。人事制度上、全国どの地域でも働く可能性があるのは理解していましたがまさか縁もゆかりもない九州エリアに配属になるとは全く想像していなかったためです。
神奈川で生まれ育ち、大学は千葉、1社目は東京勤務とずっと首都圏で生きてきた私にとって、九州は未知数の地。「福岡って何が有名だっけ?」と好奇心から情報収集を開始したものの、すぐに不安が頭をよぎりました。
誰一人知り合いがいない。親戚もいない。土地も全く知らない。それに、いくらなんでも遠すぎやしないか。
これまでも一人暮らしの経験はありましたが、実家まで電車で約1~2時間ほどの距離。しかし、福岡となるとその距離約1000キロ。頼れる人が近くにいないことに大きな不安を感じ始めてしまいました。
意外と生活の変化がなかった福岡「シティ」暮らし
不安とワクワク感が入り混じる中、その年の7月から福岡生活がスタート。そう、初めての地方暮らしです。
引越当日のことは、未だによく覚えています。福岡空港から接続する市営地下鉄空港線に乗車したのですが、車両も広告も最新の山手線に慣れていた私にとっては、一昔前の電車に乗り込んだような感覚。また、二席分を一人でゆったり座るのが通常運転らしく、「みんな詰めて座ってよ!」と心の中で苛立ちつつも「何をせかせかと」と自分への呆れも…。
さらに、福岡ではバス文化が根付いています。ほぼ定刻どおりバスがやってくるのですが、初めは行き先がよく分からず乗り間違えることもしばしば。バス通勤に慣れず会社までバスで100円で行けるのを、わざわざ電車で216円かけて通勤する、なんてこともありました。
その一方で、面白く感じたこともあります。社内でも九州出身の方が一定数おり、「これ~~すると?」「私も~~するけん」など、聞き慣れない方言で話しかけられることが新鮮でした。
こうして”地方らしさ”が垣間見える一方、福岡市は意外にも「シティ」でした。市街地は「コンパクトな渋谷」という表現がよいでしょうか。休日は人混みでごった返し、アジア各国からの観光客も多数。また、博多駅や天神駅までの交通アクセスもよく、買い物には困らないし、美味しいご飯屋がたくさんある。言葉通り「地方にある都市」という印象を受けました。
東京時代と生活があまり変わらなったことは、精神的にはよかったことかもしれません。
次第に膨れ上がる孤独感
それでも、不安がなかったかと聞かれたら嘘になります。いくつかありましたが、何より不安だったのが「会社の同僚以外に知り合いがいなかった」ことです。
東京時代は、休日は趣味のオーケストラ活動に精を出し、気の知れた仲間と毎週コミュニケーションをとっていました。もちろん、福岡でもオーケストラを始めようかと考えましたが、知らない人ばかりのオーケストラに入る勇気が出ず、、すぐに断念。
さらに、どうすればこの地に馴染めるのかわからないし、そもそも転職したばかりで会社にすら馴染めない。このように、最初はかなり孤独を感じました。
元々一人行動は好きなタイプでしたが、ホームシックが続き、帰省明けに福岡に戻った夜は家でひとり涙しました。
地元の神奈川を初めて「ふるさと」だと思えた
寂しさのあまり、Googleマップで東京と福岡の距離を眺めたりもしました。しかし、その時になってようやく、「地元」や「ふるさと」を強く意識するようになったのです。
東京時代に周りに「地元に帰る」と言ったとき、「地元って言っても神奈川でしょ!近いじゃん」と指摘され「確かに地元感ないなぁ…」と納得することが多くありました。また、私の中で「ふるさと」と聞くとなんとなく「地方」というイメージがあり、地元が都心に近い自分には「ふるさと」という言葉が似合わないと思っていました。
それが、この遠く離れた福岡にやってきて孤独を感じたり、「いつ帰ってくるの?」「早く帰っておいでよ!」と休暇の度に声を掛けてくれる友人や家族の声がたまらく嬉しく感じるようになって、「神奈川に本来の居場所がある」ことを改めて認識するようになったのです。
ここで気が付きました。「ふるさと=地方」は私が勝手に作り上げたイメージだった、と。また、「『ふるさと=自分の居場所』なのかもしれない」と思うようになりました。
そこから、仕事においても少しずつ変化が現れるように。それまではお客さんに対して、福岡に来てまだ日が浅いことや関東出身であることをなんとなく言いづらかったのですが、「私の地元は神奈川なんです!」と胸を張って言うようになった自分がいたり、「私のふるさとは神奈川です」と言いたくなったりもしました。
こうして「私のふるさとは神奈川」という、紛れもない事実を身をもって実感するようになったのです。
文:菊池 真代